近年、経営者の高齢化や後継者不足を理由とした黒字廃業が社会問題となる中、第三者への「事業承継」を通じた創業が大きな注目を集めています。ゼロから店舗を作り上げる新規開業に比べ、店舗設備などの初期投資を抑えられ、既存のお客様(ファン)や認知度を引き継げるという大きなメリットがあるためです。
今回は、福島県須賀川市で2025年10月にオープンした「QooRee(クーリー)」の栗原まさなおさん、ゆりさんご夫妻にお話を伺いました。 お二人は、地元で惜しまれつつ閉店したサンドイッチ専門店『穂風』の店舗とレシピを承継し、そこに自分たちらしい新たなメニューを加えることで、見事に人気店へと成長させています。「いつかはお店を」という夢を、事業承継という形でどのように実現したのか。そのリアルな体験談をご紹介します。
インタビュー:名店の味と想いを引き継ぐ――「QooRee」栗原さんご夫妻
憧れのお店のInstagramが繋いだ、創業への第一歩
石川町にお住まいの栗原さんご夫妻は、もともとサンドイッチ作りが好きで、「いつかは夫婦でお店をやりたい」という夢を抱いていました。まさなおさんのご実家が石川町で40年以上続く飲食店を営んでいることも、将来的な独立を意識する大きな要因だったそうです。
そんなお二人の転機となったのは、須賀川市で人気を集めていたサンドイッチ専門店『穂風』のInstagramでした。2025年3月に惜しまれつつ閉店することが決まっていた同店が、店舗とサンドイッチのレシピを承継してくれる人をSNS上で募集したのです。
「今すぐに創業するのは難しいかもしれないけれど、大好きな穂風さんのサンドイッチ作りを教えてもらえたら……」 そんな純粋な思いから、ゆりさんは思い切って連絡を取りました。事業承継の希望者は他にも何組かいたそうですが、お二人の熱意が通じ、見事に後継者として選ばれることになりました。 「まさか選んでいただけるとは思っていなかったのでびっくりしましたが、選ばれたからにはやるぞ!と覚悟が決まりました」と当時を振り返ります。このマッチングにより、店舗内の厨房機器などをそのまま引き継いで使用することができ、創業時の大きなハードルとなる初期投資を大幅に抑えることができたと言います。
受け継いだ味と、新たなアイデア「クレープ」の相乗効果
穂風さんとの出会いがきっかけで、須賀川市での出店が決まりました。地元の石川町よりも人口が多く、郡山や白河といった近隣エリアからもアクセスしやすい須賀川は、お二人にとって商圏として非常に「ちょうどよい」魅力的な場所でした。
QooReeでは、承継した人気のサンドイッチに加え、新たにクレープとトーストの提供も始めています。これには、経営的な視点に基づく明確な理由がありました。 「メニューが事前に仕込んでおくサンドイッチだけだと、仕込み数の予測が難しく、食品ロスの問題も出てくると考えました。そこで、注文が入ってから作る、老若男女問わず人気のクレープも展開することにしたんです」
クレープのメニューは、ご自身が「食べたい」と思うものを試作し、ご夫婦で相談して決めています。まるでパフェのように、プリンやチーズケーキを大胆にトッピングした斬新なメニューは、早くもお店の看板商品の一つになっています。「お芋が好きなので、今後はお芋を使ったメニューも展開していきたいですね」と、メニュー開発への意欲は尽きません。
やらない後悔より「やってみる」ことの大切さ
オープンから半年が経過した現在、お子さまから大人まで幅広い年齢層のお客様が訪れています。 「カウンターにお子さまが並んで、美味しそうに食べてくれる姿を見ると、あの時思い切って穂風さんに連絡して本当によかったなと心から思います」と、ゆりさんは笑顔で語ります。
開店当初は様々なSNSで取り上げられたこともあり、多くのお客様で賑わいました。しかし、ご夫妻が見据えているのはその先です。 「まさなおの実家の飲食店のように、お客様に長く愛されるお店にしたい。そして、穂風さんのようにたくさんの人に愛されたこの場所をこれからも残していきたい。だからこそ、一過性のブームではなく、ずっと安定して継続させていくことが一番の課題であり、大変なところだと感じています」
最後に、これから創業を考えている方へ向けて、力強いメッセージをいただきました。 「迷っているなら、やらないで後悔するくらいなら、とりあえずやってみること!そして、自分のやってみたいことや夢は、どんどん口に出して周りに言っておくこと。そうすることで、自然とよい出会いに繋がっていくと思います」
事業承継という創業の形とそのメリット
リスクを抑え、既存の資産を活用する新しい創業スタイル
栗原さんご夫妻の「QooRee」の事例は、これから創業を目指す方にとって非常に参考になるモデルケースです。今回の事例から読み取れる、事業承継型創業の主なメリットは以下の3点に集約されます。
- 初期投資と運転資金の大幅な削減 飲食店を開業する際、内装工事や厨房機器の導入には多額の資金が必要です。しかし、前オーナーの設備を居抜きに近い形で引き継ぐことで、初期費用を劇的に抑えることができます。浮いた資金を新メニューの開発や当面の運転資金に回すことで、経営の安全性が高まります。
- 技術(レシピ)と顧客基盤の引き継ぎ 全くのゼロから看板商品を生み出し、認知を獲得するのは容易ではありません。QooReeのように、すでに地域で愛されていたレシピを引き継ぐことは、圧倒的なアドバンテージとなります。旧店舗のファンが「あの味がまた食べられる」と来店してくれるため、開業当初の集客リスクを大きく軽減できます。
- SNS等を通じたダイレクトなマッチングの可能性 近年は、専門機関を通さずとも、SNSや地域のコミュニティを通じてオープンに「後継者募集」が行われるケースが増えています。日頃から情報にアンテナを張り、自分の夢を発信し続けることで、栗原さんのように運命的なマッチングを引き寄せるチャンスが広がります。
事業承継は、単に「古いものをそのまま残す」ことではありません。QooReeが受注生産型のクレープという新しい価値を付加し、食品ロス問題の解決と顧客満足度の向上を両立させたように、先代の想いや資産をベースにしながら、後継者自身のアイデアを加えてブラッシュアップしていくことが重要です。
「いつか自分のお店を持ちたい」という夢をお持ちの方は、ゼロからの立ち上げだけでなく、地域にある宝(既存店)を受け継ぐ「事業承継」という選択肢も、ぜひ視野に入れてみてください。
須賀川市での創業に関する相談・申請窓口
須賀川市 経済環境部 商工課 にぎわい創出係
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